大阪高裁の判断近づく

 2018年7月11日の大津地裁の日野町事件の再審開始決定を審理していた大阪高等裁判所は、4年目で再審開始決定を支持するか取り消すかの判断をする時期になっています。

 弁護団は、検察官の異議申立に理由はなく、再審開始を4年間も遅らせるだけの対応であり、速やかに異議申立を却下するように求めてきました。

 DNA鑑定の結果、足利事件の犯人ではないとして再審で無罪となった人が、警察での取調べで警察の集めた証拠と合う自白調書が作成されたり、体験もしていない犯行現場を案内できたりしていました。また、真犯人が見つかって再審で氷見事件の犯人でないとして無罪となった人が、捜査の段階で被害者の住居を知らないのに案内できたとして実況見分調書が作られていました。

 日野町事件の強盗殺人の犯人とされた阪原さんも、奪われた金庫が投棄されていた山林の中を誰からも誘導されることなく案内できたことが、裁判官に真犯人に間違いないとの有罪心証を与えて、最高裁まで争って有罪判決が確定していました。

 再審請求審で、警察が保管していたネガと現像写真が新証拠として提出された結果、真犯人の決め手とされていた山林の中を案内する様子として説明して実況見分調書に使われていた写真が、見分を終えて帰り道で行き道を案内するような演技を阪原さんにさせて撮影した写真が多数使われていたことが判明しました。この証拠を使って証言した警察官や検察官の証言の信用性が崩れて、再審開始の原動力になりました。

 阪原さんが、犯人でないとすると、警察官や検察官が誘導していないのに、被害金庫が発見された現場に案内できたことの説明がつかない。

 大津地裁の再審開始決定は、直接的な誘導がなくても、警察官らの発言や表情、動作、断片的な情報を取調べを受けている被疑者とされた人が読み取り、警察官が正解と考える答えや動きをし、被疑者の答えや動きを受け止めた警察官らが、これに反応してさらに態度や発言による断片的な情報の提供が行われ、両者の間に相互に正解に向かう作用が生じる。これを大津地裁の裁判官は「正解に向かう相互作用」という表現を用いたところ、これが誤りであるとして検察官が激しく非難して争ってきました。

 弁護団は、メルボルン大学の中根育子教授に鑑定依頼し、警察官と被疑者との間のコミュニケーションとして言語学的にも認められてきた概念であることを明らかにしました。

 大津地裁の決定は、足利事件や氷見事件で再審無罪とされた人たちがあたかも真犯人のように現場を知っているかのような案内行動をしたり、警察官の手持証拠と合う自白をする現象が起きる原因を解明する努力として、裁判官が警察や検察の作成した証拠の中には、警察官らと被疑者のコミュニケーションの中で正解に到達したものがあるとの注意則を述べ、日野町事件の阪原さんが犯人でないとしても、合理的に説明できることを説明していたに過ぎないことが明らかになりました。

 大阪高裁の決定は、今年の7月ころには出るのではないかと予測しています。

                               2022.2.06記

 

2018.7.11  日野町事件の再審開始決定が出ました。

 大津地裁で、日弁連支援事件の弁護団の一員として阪原弘氏(故人)に対する再審を開始する決定を得るまで、17年近くかかりました。

 服役中に病気になり、再審開始決定を待たずに亡くなられた故人の名誉を回復するために、再審請求を決断されたご遺族の皆さんに敬意を表します。

 最高裁まで争って無期懲役刑が確定し、その後、「私はなにもしていませんさかいに、早くここ(刑務所)から出してください。お願いします」と言い続けて、服役中に病気で亡くなられた阪原弘さんの無念の思いを引き継いで遺族の皆さんと再審の重い扉をこじ開けることができました。

 しかし、検察庁は、大阪高等裁判所に再審開始決定の取消しを求めて即時抗告をしたために、再審の裁判の始まりが先送りになりました。

 阪原さんと事件を結びつける直接証拠はなく、唯一、被害金庫が発見された場所を誰から教えられることなく任意に案内できたとする引当捜査の証拠書類と警察官、検察官の証言が決め手となって、有罪判決が確定していました。

 再審請求の審理の中で、引当捜査の様子を撮影した写真のネガが開示されました。

 ネガを調べていて、任意に案内している様子であると説明し証拠にしていた写真が、実は引当が終わっての帰り道で、行き道の経路を案内しているポーズを阪原さんに演技させて撮影した写真であることを発見しました。

 弁護士になっていくつかの冤罪事件の弁護を続けてきましたが、この発見の衝撃は最も大きいものでした。

 有罪の決め手となる証拠が乏しい中で、このような虚偽の証拠と証言で無実の人を有罪であると裁判官の判断を誤らせる証拠で有罪判決を獲得していた事実が判明したのですから、検察官には速やかに再審開始を求める責務があります。虚偽の証拠を作成した警察官、これを証拠として請求し誤った有罪判決を獲得した検察官の責任を明かにして、誤判が生じない証拠の採取、証拠の請求にしていく責務があります。

 このような責務とは逆に、大津地裁の3名の裁判官の判断が誤っていると主張して不服申立をしている検察庁の組織には、誤判防止に対する真摯な反省と取組みが欠如しています。

 大阪高等裁判所での取組みでは、刑事裁判の仕組みの中に温存されている誤判を生じる警察官や検察官の証拠採取と証拠の請求の仕組みを明らかにします。また、被疑者や被告人の無罪方向の証拠が裁判官の目に触れないようにしている致命的な冤罪を生み出している制度の欠陥を指摘し、改革に繋がるような裁判所の判断を得ることを目指します。

                                        2018.8.20記

 

 

 

 

 

再審のはなし//日野町事件を担当して 

裁判員裁判の法廷風景

2018.3.06 日野町事件の再審請求

滋賀県の日野町で昭和59年(1984年)12月28日に起きた酒店の女性店主の失踪事件で、強盗殺人事件の犯人とされ、無期懲役刑が確定した阪原弘氏の再審請求事件(日野町事件)のお話です。

大津地方裁判所で7月11日に予定されている再審を開始するかどうかの決定を待っている段階です。

日野町事件を通して、警察の捜査で集まった証拠の選択と刑事裁判の関係、検察官による証拠の選択と刑事裁判の関係、裁判官が自白偏重に陥る原因、捜査、公判、再審の改革等を考えて行きます。

 

2018.3.26 再審は宝さがしゲーム?

一審、二審、最高裁と三審制のもとで有罪の判断が確定し、刑罰を執行している段階に入って裁判のやり直しを求めるのが再審です。無実の人が誤って有罪とされ、刑罰を受けることは人権救済の司法を担う裁判所が人権を侵害することであり人権救済のための制度が再審です。

そうは言っても、確定した裁判の記録は、有罪と評価された証拠で固まっており、無罪の証拠を新たに発見するのは、砂漠のどこかに埋もれている無罪の証拠を探し当てる宝さがしゲームに等しく何時発見できるのか見通しが立たないのが現実です。

その最大の原因は、捜査段階で警察の元に無罪方向を示す証拠も全て集められ、その中から、有罪方向を示す証拠のみが選ばれて裁判所に提出される訴訟制度の欠陥にあります。無罪方向を示す証拠を提出する義務がなく、証拠開示の要求にも基本的に検察官が応じません。このために、弁護人が無罪方向の証拠を裁判所に示すことができない状態が一審から再審請求段階まで続いているところにあります。

無罪方向の証拠を隠して、有罪方向の証拠で有罪判決を得ることがまかり通る司法制度の欠陥が正されることなく、今日まで続いています。

日野町事件では、再審請求での協議で裁判所の証拠提出の求めに応じて検察官が無罪方向を示す写真とネガを提出したことから、再審開始の扉の鍵が開きはじめ、新証拠が流れ込んできて有罪とされていた旧証拠の再検討が裁判所で始まりました。

再審請求に関わって16年あまりの宝さがしゲームのような弁護活動でようやく無罪方向の新証拠に出会ったところです。

 

7月11日(水)午後 大津地方裁判所で再審開始決定の予定

 大津地方裁判所は、新証拠に基づき再審開始をするかどうかの決定を上記の日に行うことを予告しています。

 弁護人は、新証拠が阪原さんの無罪判決を言渡すことが明らかな証拠であり、再審開始決定は当然の判断であると予測しています。

 

5月10日午後1時30分~滋賀県日野町の石原山で司法記者への現地再現説明会

 阪原さんが犯人であると判断した一審3名、控訴審3名、最高裁5名の11名の裁判官らは、警察官が作成した金庫発見現場を阪原さんに案内させたところ任意に案内できたとする実況見分調書と証言により、阪原さんが金庫発見現場を知っている犯人であるとの事実を認定して、強い有罪心証を形成して、有罪判決を維持していました。

 再審請求の審理の中で、当時撮影したネガ出てきて、金庫発見現場の行き道で撮影した写真と帰り道で撮影した写真を適当につなぎあわせて、任意に案内している様子が写真に記録されているという偽りの証拠を作って裁判所をだましていたことが判明しました。

 この証拠がなければ、裁判所が阪原さんを誤って有罪にすることはなかったので、この新証拠の発見が、今の再審の裁判所に再審開始決定の方向に向かわせています。

 この事実を多くの人に知ってもらい、刑事裁判における警察の証拠作り、証拠提出の問題点を克服する刑事裁判手続の改善点を考えていく契機になればと思い、司法記者やテレビカメラ要員が30名余り集まる現地説明会の準備に取り組んでいます。

  警察が集めた証拠の中で、裁判所に有罪であると判断させる証拠を提出し、有罪かどうか疑わしい、むしろ無罪と判断されるのではないかと思う証拠は隠して、刑事裁判を進めることが許されている仕組みを変えないと、無実の人を誤って有罪にしてしまう刑事裁判が続くことになります。

 

 

 

 

 

インフォメーション

お問合せ・ご相談
079-590-1855

お問合せ・法律相談をご希望の方はお電話にてご連絡くださいますよう、よろしくお願いいたします。

受付時間/定休日
受付時間

9:30~17:30

定休日

土曜・日曜・祝日

刑事事件など緊急性の高いご相談は時間外のご相談に応じます。

アクセス

〒669-2203
兵庫県丹波篠山市吹新129-7 吹新溝端ビル2階
JR福知山線篠山口駅より、
タクシー5分
篠山営業所行きバス5分
四季の森下車 徒歩7分
自動車でお越しの際は、
舞鶴若狭自動車道丹南篠山インターから東に700メートル